
ユウタとの出会い
30歳を目前に控えたサユは、焦っていた。理由は、周りの友人たちがこぞって結婚し始めたからだ。高校時代の友人、職場の同僚、さらには昔からの幼馴染まで、みんなが「結婚しました!」と幸せそうな写真をSNSに載せている。
今日もLINEの通知が鳴り、サユはメッセージを見た。 いつも自由奔放だったユカリが、来月結婚するというのだ。突然の結婚報告で、サユはショックを受けた。この前会った時のユカリは「結婚なんてまだ先よ」と笑っていたのに。
最近は仕事が忙しく、閉鎖的な職場で恋愛とは無縁の生活を送っていた。それに、数年前に彼氏と別れてからは、恋愛に積極的になれずにいた。
しかし、このままでは結婚できない。サユは人並みに結婚願望があるし、彼氏も欲しい。
「自分から行動を起こさなければ」
突如襲ってきた焦りと不安から、最近結婚した職場の同僚に勧められたマッチングアプリを半信半疑で始めることにした。
最初は興味本位でスワイプを繰り返していたが、ある日、ユウタという男性とマッチする。

久しぶりの恋
ユウタは一つ年上の薬剤師で、職場に男性が多く出会いがないらしい。彼もまた、友人の勧めでアプリを始めたものの、まだ一度も女性と対面で会っていないという。
ユウタから送られてきた「サユさんのプロフィール写真に映る自然な笑顔と、「好きな時間を大切にする」という一文に惹かれた」というメッセージが新鮮で、嬉しくなった。
最初の数日間は、他愛もない会話が続いたが、やがてお互いの趣味や価値観について話すようになり、共通点が多いことに気付く。 サユはカフェ巡りが好きで、飲食店検索サイトで話題のお店に行く。彼も美味しいものを食べることが好きだという。会話が続く中で、サユはユウタに会ってみたいと思うようになった。
ユウタから電話をしようと提案されたときは、すぐに返信をした。指定された時間に着信音が鳴り、スマホの画面にユウタの名前が表示され、心臓が飛び跳ねる。

初めての電話
「初めまして、ユウタです。」 その瞬間、サユは思わず笑みがこぼれた。想像していた通り、彼の声は優しく、温かみがあった。メッセージだけでは感じとれなかった彼の人柄が、声が直接聞こえてくる。
「やっと声が聞けて嬉しいよ!メッセージだとちょっと距離がある気がしてたからさ。」ユウタがそう言うと、サユも笑いながら答えた。
ぎこちなく会話が流れ始めた。 最初は仕事や趣味の話、共通の好きな食べ物の話題など、メッセージで話していた内容を確かめあうように話をした。
ユウタの笑い声が電話越しに聞こえる。ユウタが冗談を言うたびにサユも笑って、二人の笑いが重なり、それがサユに安心感を与えた。
二人の会話はもう少し深い話題に移った。これまでの恋愛経験について、そして将来の夢など、メッセージでは触れられなかったことも自然と話題になった。
「ユウタと話をしてるとすごく安心するし、こんなに話が合う人に出会えるとは思ってなかった。」 サユがドキドキしながら伝えると、ユウタも優しく答えた。「最初は不安だったけど、サユと話をしてるとすごく楽しい。価値観が合うし、何だか安心できる気がするんだよね。」サユは彼が自分と同じ気持ちでいてくれたことに胸が熱くなった。
気づけば通話開始から1時間経過していた。 最初は短く話そうと思ったが、時間が経つのを忘れるほど会話が盛り上がっていた。
話が終わるころ、ふと会話が途切れた。
「今日、すごく楽しかった。また電話しようね。それと…良ければ、次は実際会ってみない?」 ユウタの少し不安そうな声を聞いて、サユもすぐに「私もそう思ってた!会ってみよう!」 と伝えた。
今度の土曜日に話題のカフェに一緒に行く約束をした。電話を切った後、サユはスマホを手にしながらしばらくの間、ユウタとの会話を思い出していた。

デートの約束
デート当日、サユは少し緊張しながらワンピースに袖を通した。今日のデートのために購入したものだ。買い物に付き合ってくれた親友が「これ、絶対似合うよ!」と勧めてくれた若草色のワンピースは、自分では選ばない色だったけれど、着てみると不思議と納得した。鏡に映る自分を見ていると、親友に背中を押されている気がして、元気がでた。
お昼過ぎ、サユは待ち合わせ場所のカフェに向かった。数週間にわたるメッセージは順調で、彼の陽気な雰囲気と優しさにどんどん惹かれていった。集合時間は午後2時。 カフェの窓際の席に座り、快晴の空を眺めた。 彼のプロフィール写真を見ながら、期待感と緊張感で心がチグハグだったが、とにかく楽しみだった。

灰色のカフェ
20分、30分と時間が経過した。ユウタは現れない。メッセージも既読にならない。
「何かトラブルでもあったのかな?」と、サユの不安が高まる。さすがに遅すぎると彼に電話をかけた。しかし、電話はコール音だけが響き、ユウタは出なかった。
「まさか、すっぽかされたの…?」
1時間が経過し、運ばれてきたカフェラテはすっかり冷めてしまった。窓から見える景色が灰色に染まり、隣のカップルの会話が遠のいて行く。落ち込みながらも、サユは冷静にスマホを開き、ユウタからの連絡を再度確認した。 しかし、そこにメッセージはなく、既読にもなっていなかった。
急に現実に戻ったサユは、自分が恥ずかしくてたまらなくなった。画面上の人に夢中になり、久しぶりの色恋に浮かれて、ユウタのために服を買い、メイクも整えた。良い歳をしてなんて滑稽で無様なんだろう。インスタ映えを狙った可愛いケーキが見苦しくなり、席を立ち、人の目から逃れるようにカフェを出た。
サユは駅へ向かう道を一人で歩いていた。サユの心の中とは裏腹に空は憎たらしいほどの快晴だ。透き通るような空を見上げると、自分の泥まみれの感情が溢れ出て、気づいたら頬を伝っていた。ユウタと会えなくて泣いているのではない。ここ数週間の自分に呆れているのだ。

偶然の再会
目の前の交差点で信号待ちをしていると、ふと、どこか懐かしい顔が目に入った。
目をこらすと、その人は大学時代の友人、マキだった。もう何年も会っていなかった彼女と、こんなときに偶然再会するなんて思ってもみなかった。サユは自分が泣いていたことも忘れて思わず声をかけた。
「マキ?」
マキは驚いた顔をして振り返り、すぐに笑顔を浮かべた。
マキとの会話はすぐに馴染んだ。「サユ、全然変わってないね。でも、前より素敵になったんじゃない?そのワンピースすごく似合ってる。」マキの突然の褒め言葉に、サユは少し照れた。「え、そう?ありがとう。実は最近ちょっと体型も気になって…」と謙虚しつつも、喜びを隠せない。
マキは笑いながら続けた。
「本当だよ。なんかすごくキラキラして見えるし、やっぱり大人の余裕っていうのかな。より自信がついてる気がするよ。」
その言葉に、サユはハッとした。 確かに、ユウタと出会ってから、自分の外見に気を使うようになった。自分では気が付かなかったけれど、最近の私は前向きで、日々を楽しんでいた。
「ありがとう、マキ。すごく嬉しい。マキも、すごく素敵になったと思う。髪も綺麗だし、前より大人っぽくなってるよ。」
お互いに微笑み合いながら、近いうちに会おうと約束をして別れた。
マキのおかげで、サユはユウタと出会えてよかったと思えるようになっていた。単純な自分に笑いながら、気になっていた化粧品を見てから帰ろうと決めた。
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