驚きの出会い

文通から始まる恋。届かなかった返事の真相とは・・・

メールやラインが普及する前の時代。
雑誌には文通相手を募集するページがあったそうです。
今では考えられないですが、住所などを雑誌に記載し、同じ趣味を持った人と手紙でやり取りをする、なんてことが流行っていたそうです。

初めての文通

古臭い田舎が嫌で20歳で上京したはいいものの、就職もすることなく3年がたってしまった。やることもこともなく、毎日ダラダラして時間も持て余していた。

ある日、暇つぶしに雑誌を読んでいた時、ふと文通相手を募集するページが目に止まった。

 

「かなこです。入院をしていて、話し相手もいないので、友達になってください」

 

何か思う前に決めた。
この子に手紙を送ろうと。

 

なけなしの金で手紙を書く準備をした。
封筒、便箋、切手。鉛筆。

 

いざ書こうとしたが、何を書けば良いのか・・・。
しかし、考えていても仕方がない。
とりあえず、僕は自己紹介を書くことにした。

 

かなこさん
はじめまして。ヒデといいます。
文通募集のコーナーをみて、手紙を書きました。
僕は23歳で東京で一人暮らしをしています。趣味は音楽で洋楽を聞きます。
よかったら返事をください。
よろしくお願いします。
ヒデ

返事を書いてくれるだろうか。
なんだか、とてもワクワクした。

 

待ちに待った返信

手紙を出した翌日から毎日郵便受けを覗いた。
しかし、1週間たっても2週間たっても返事は来なかった。

 

諦めていた頃、郵便受けに一通の手紙が入っていた。

淡いピンク色で可愛らしい封筒だった。

 

彼女に違いない!

 

そう思って、急いで封を開けた。
破かないようにそーっと。

 

手紙はかなこさんからだった。
とても綺麗な字で文章が綴られていた。

 

ヒデさん
お手紙ありがとうございます。
とっても嬉しかったです。

 

ぜひお友達になってください。
よろしくお願いします。

かなこ

 

僕は舞い上がってしまいそうだった。
何度も何度も繰り返し読んだ。

手紙には、

入院していること。
本を読むことが好きなこと。
普段音楽聴かないから、おすすめの曲が知りたいこと。
そういった内容が綴られていた。

 

僕は急いで、返事を書いた。

僕が大好きな曲を書いた。
そして、僕は彼女に本のことを聞くことにした。

 

「僕は本を読んだことがあまりないのです。
好きな本はなんですか?あなたの好きな本を読みたいです。」

 

彼女の好きなものが知りたくて

彼女は難しい本ばかり読むようだった。
太宰治、芥川龍之介、夏目漱石・・・。
正直、頭の悪い僕には難しすぎた。
でも、一生懸命読んだ。

彼女が好きなものを知りたい。彼女と共有したい。
その一心で必死に文字を追った。
お互いが書く手紙は、音楽や本の感想ばかりになっていった。

 

僕は彼女の事が・・・

冬が始まった頃から、彼女からの手紙が届くのが遅くなり始めた。
体調の具合を尋ねると、やはり体調が悪いそうだ。
僕は、励ましの言葉を書いた。

 

君が元気になったら会いに行く、と。

 

ふと僕は自分の気持ちに気が付いた。

僕は彼女のことが好きなんじゃないか?
顔も知らない女性に恋?
ありえない!
いや、でも・・・。

 

彼女の事が好きだから、彼女の好きなモノが知りたかったし、一生懸命本を読んだんだ。
だから、返事が待ち遠しかったんだ。
だから、前より毎日が楽しかったんだ。

 

僕はかなこさんが好きなんだ。
僕はやっと気が付いた。

 

待てど暮らせど返事はなく・・・

2週間たっても、1か月たっても、3か月たっても、返事はなかった。

 

なにか気に触れるようなことを書いてしまっただろうか。
それで気を悪くして、返事を書いてくれなくなってしまったのだろうか。

嫌われてしまったのだろうか。

 

そういえば、彼女は体調を悪くしていた。
もしかして、亡くなってしまったのだろうか・・・。

 

もう一度、手紙を書こうか、いや、嫌われているなら、もっと嫌われてしまうかもしれない。それなら書かないほうがいいか・・・。
悩んだ末、僕は手紙を出さなかった。

翻訳家の女性との出会い

あれから僕は出版社に務めた。
本の仕事をすれば、彼女の事は忘れない。
そう思ったからだ。

 

ある時、先輩の紹介で翻訳の仕事をしている女性に出会った。

名は、かなこさん。

奇しくも文通相手と同じ名前だった。

丸くて大きな瞳と笑うと頬に浮かぶえくぼが印象的だった。

 

僕たちは出版の仕事をしていることや、読書が趣味という共通点で次第に惹かれあうようになっていた。

 

彼女の正体

「僕、昔あなたと同じ名前の女性と文通していたんです。
突然返事が来なくなってしまいましたが・・・。
お会いしてみたかったんですけど・・・」

 

僕はこう打ち明けた。

 

すると彼女は驚いた顔して言った。

 

「私もよ!あなたと同じ名前の男性と文通していたの!病気で入院していて心細かった私を支えてくれたの!」

 

「もしかして君は・・・」

 

僕は、覚えている限りの手紙の内容を話した。

 

彼女は目に涙を浮かべながら、
「全部覚えているわ。あなたの文通相手は、私よ」

 

僕は思わず彼女を強く抱きしめた。

「ぼ、僕は、君が死んでしまったものとずっと思っていたんだ・・・!
ずっと会いたかったんだ!!」

 

聞くと、彼女は僕の手紙が届く前に病状が悪化し、海外で手術を受けたらしい。
手術後しばらくは、起きることもままならなったそうだ。
そのまま海外で暮らし、手紙を書くタイミングを失ってしまったそうだ。

 

「怒っていると思ったの。私が返事を書かなかったから。何度も手紙を出そうとしたけど、怖くて出せなかったの。ごめんなさい」

 

「いいんだ、会えて嬉しいよ」

 

彼女からの最後の手紙

彼女と結婚して50年。
一度も手紙を書くことはなかった。
いつも隣にいるから、手紙など書く必要がなかった。
でも妻が亡くなって、手紙を書いておけばよかったと後悔している。
彼女がいた、という証拠を残しておくべきだった。

ある日、郵便受けに一通の手紙が届いていた。
淡いピンク色の可愛らしい封筒だった。

 

妻からの手紙だった。

 

タイムカプセル郵便を利用したらしい。
指定した未来に手紙を届けてくれるサービスだ。

 

僕はそっと封を切った。

 

手紙には今までの感謝の言葉が綴られていた。
そして、あの日の返事が書けなかったことを謝る内容だった。

 

「返事が遅くなってしまってごめんなさい」と。

 

僕は返事を書かなくてはいけない、と思ったが、それはもう少し後にすることにした。

 

「もし返事を書いていただけるなら、急がないでください。
なるべく、なるべく遅くなるよう私に届けてください。
私はいつまででも待っていますから。今までありがとう」

 

shiroki著

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