行きつけのパン屋

これは私が良くいくパン屋で起きたお話です。都内の大学を卒業し、中小のサラリーマンに努めている私にはある楽しみがあります。それは通勤途中にパン屋に寄ること。そのパン屋は私の家から徒歩で10分ほどで、そこでパンを買ってから通勤しています。私は、そのお店の店員さんに恋をしています。
パン屋での恋
2年前私が世田谷区に引っ越し、何気なく立ち寄ったパン屋で彼女と出会いました。その女性はスミレさんという方で、日本とイギリスのハーフなのです。茶色っぽい黒髪に青い瞳をした華憐なスミレさんに思わず一目惚れしました。そして、私は毎朝会社に行く前に彼女のいるパン屋に通うことが楽しみになっていきました。彼女は現在大学2年生で、公認会計士を目指しながら空いている時間を使って働いているそうです。毎朝ひたむきに働き、そのあと学校で勉強しているなんて、ものすごい頑張り屋さんじゃないか。そんな彼女を一段と好きになりました。またいつものようにパンを買っていたら、「毎朝買っていただきありがとうございます!これ、日頃の感謝の気持ちです、クッキー焼いてみました!受け取ってください!」。クリスマスの日でした。
初めての女性からのプレゼント

私は女性からプレゼントをされたことなど人生で一度もありませんでした。中学高校は男子校であり女性と喋るなんて言ったら母親ぐらいのものです。大学は理系の学部に入り、青春のほとんどが研究を占めていたため出会いは皆無でした。小学校の時でさえ、「気持ち悪い」とバレンタインの日にチョコレートの代わりに泥をプレゼントされた経験があります。それぐらい女性とは無縁だったのです。
お返しは何にするか?

折角プレゼントをもらったのだ、何かお返しをしなければと思い考えていました。恥ずかしながら32年間生きてて一度も女性とお付き合いしたことが無かったのでさっぱり思いつきませんでした。インターネット、雑誌、友人あらゆる情報網を駆使して女性がもらったら喜びそうなものを調べました。財布、香水、カバン、花束、アクセサリーなど色々な候補が出てきました。しかし、どれがしっくりくるのかさっぱり分かりませんでした。
お礼を言いに行く
ここは彼女に好きなものを質問しようとあのお店に行きました。いつものように笑顔で出迎えてくれたスミレさんの隣には仏頂面した4~50代ぐらいの大男が立っていました。彼は睨みつけるような顔をしており思わず後ろに1歩下がってしまいました。最初借金の取り立てに来たのかと思いました。しかし、よく見ると白いコック帽を被っていたのでこの店の人間だとすぐ気づきました。どうやら彼がこのパン屋の店長のようです。私はスミレさんにプレゼントのお礼を言いました。すると彼女は、「いつも来てもらっているので当然です!またいらしてください!!」と溢れんばかりの笑顔でそう言いました。やはり、この笑顔には癒されるそう思いました。そして、そのままお店を出ると、あの事を聞くのを忘れたことに気が付きました。私としたことがうっかりしていました。しかし、また戻って聞くのもなぁと悩んでいるとお店の近くから聞き覚えのある声が聞こえました。
いけないとは思いつつ…
お店の裏の方から聞こえたので見に行ってみると、スミレさんと先ほどの大男が話していたのです。盗み聞きするのはよくないと思いつつも、耳を傾けてしまいました。
「新しいパンを作ったはいいがなかなか売れないな。それに、ここ最近売り上げが落ちてきている。店を閉めなきゃいけないのだろうか…」
「そんなことないわ!さっきのお客さんだって毎日来てくださっているのよ!このまま頑張ればまた昔みたいに活気が出るわよ!」
「そうだといいけどなぁ…」
「一緒に頑張りましょう!」
バイトで働いていると思ったが、敬語を使っていないあたり親しい関係なのは確かでした。私はその時彼がスミレさんの父親だと思いました。勉強の合間に家の手伝いをしている孝行娘なのだと。私は拳を強く握った後、その場を後にしました。
男の決意!

私がたどり着いたのは銀行でした。口座の中にあるお金を全て引き出しました。老後に備えるために決して多くはない給料から少しずつためていた貯金を…。引き出したお金を手に取り、私はあのパン屋に向かったのです。そして、美しいパン屋の店員、いや将来私の妻になるだろう相手に、
「ここにある全てのパンを下さい!!」
全身全霊でそう叫びました。
しかし…
「あなた!あなたが作ったパンを全て買って下さるって!」
私は耳を疑いました。あなたと呼ぶような人がいるのか?そう思っていると先ほどの大男、いや私の将来の義父になるであろう男が姿を現しました。男は私に頭を下げ、二人は向かい合って笑顔になりました。私は二人の関係を聞くと
「私たち、2年前に結婚しました!今日が夫婦生活の中で一番幸せです!」
私の勘違いに終わりました。
aihon著




















