ゲームからの出合い

「俺にかまわずお前だけでも逃げろ…!」からの結婚

これは私が通っていた大学で同期が経験した男女の恋のお話です。

私が関西で女子大生をしていたころ、一番仲が良かったカナコちゃんは
単位や資格をたくさん取得する頑張り屋さんの女の子でした。

田舎から上京してまんまと堕落した私とは違い
毎日実家から通い、規律正しい生活で日々を過ごすカナコちゃんは
委員長タイプの優等生。

二人に共通するのは男っ気がまったくないということのみ。
でもなぜかウマが合って、よく私のアパートでどうでもいいオタク話をしながら
夜を明かしたものでした。


そんな私たちが無事に大学を卒業し、社会人生活をスタートさせた頃に現れたゲームが
当時の株式会社スクウェアが手掛けたオンラインゲーム
『ファイナルファンタジー11(FF11)』です。

たまたま興味を持ってやりはじたカナコちゃんは
すぐに仕事以外のほぼすべての時間をFF11のプレイにつぎ込むほど
このゲームの世界にのめりこんでいきました。

彼女いわく、FF11の世界ではオートセーブでデータが保存されていくため
例えば自分の拠点がある街から離れた場所で予想外の死を迎えた場合、
問答無用で自分の街まで戻されてしまい
それまで稼いだ経験値やアイテムも失ってしまうそうです。

そうならないために、信頼できる仲間たちとパーティーを組み、
お互いにフォローしながら道なき道を進み、難敵を倒し経験値を得てさらに強くなる。
まさに彼女はゲームの中でもう一つの人生を生き、
ともに歩み成長する仲間たちを得ていたのでした。

そんなカナコちゃんと、付かず離れずの関係を続けつつ
自分の人生を邁進していた20代半ばの頃でしょうか、
カナコちゃんが突然泣きじゃくりながら私に電話をかけてきたのです。
「彼が、彼が、敵に襲われた私をかばって、お前だけでも逃げろって、彼が」

いやそのゲームまだやっとったんかい。


とにかく友人として、彼女を落ち着かせようと話を聞きだしたところ、
いつものパーティで遠出をしたら敵が強すぎて全滅しかけたけど
中心メンバーである暗黒騎士が、自分の体で彼女をかばって逃がしてくれたと。
しかもその彼は死んでしまって、ここまで来れたのは彼の功績が大きいのに
どう償えばいいのか分からないと。

うーん、またチャレンジすればいいんじゃない?という気持ちは呑みこんで
彼女が落ち着くのを待っていたら、やがてカナコちゃんは決意を込めた声で言いました。

「彼と結婚する」と。

てっきりゲーム内での話かと思った私は、無責任に賛同してしまったのですが、
彼女はその勢いのまま暗黒騎士のプレイヤーに告白し、
実際に生身の人間として会う約束を取り付けたのです。


そして約束の日に現れた彼の正体は、東北地方にお住まいの男性で、
薬剤師試験に2年連続で落ちてしまい、
今年はついに不合格のまま卒業が決定している大学8年生でした。

それを聞いた私は、門外漢ながら「ゲームのやり過ぎでは…」と思ったのですが、
彼を運命の人だと定めたカナコちゃんの行動は肝が据わっています。

彼女は大学を卒業した彼を関西に呼び寄せ、一人暮らしのアパートを借りて住まわせ
その生活費や薬剤師になるため必要な教材や模擬試験の費用などをすべて肩代わりしました。
ただ毎日勉強だけをすればいい、そんな時間を彼に与えてまる3年間、
彼が薬剤師の免許を取得するまで名実ともに彼のお世話をし続けたのです。

それを聞いた私は、やはり門外漢ながら「その状況でさらに2回も落ちて…?」と思ったのですが
カナコちゃんの愛が揺らぐことはありませんでした。


とにかく薬剤師になった彼と、彼を支え続けたカナコちゃんでしたが、
なんとその彼氏、自分の両親にカナコちゃんの存在を全く話してなかったことがわかりました。

というわけで、その後、何も知らない両親の呼びかけに応えてしれっと東北に帰る彼氏。
彼を追いかける怒りのカナコちゃん。
彼の両親にまっこうから「彼は関西で私と暮らします」と宣言するカナコちゃん。

彼の両親はそこで初めて、自分の息子がゲーム三昧でまったく勉強をしておらず、
そのゲームの中で仲良くなった女性に関西に招かれて
そのまま3年間のヒモ生活を送り、
総額700万円も貢がせていたと知ってうなだれたそうです。

結局のところ、そんな親御さんの苦い気持ちも飲み込みながら
二人はついに結ばれ、そして今も関西で仲睦まじく暮らしています。

この話、カナコちゃんからいつどのタイミングで聞いても
彼の気持ちが一切出てこなくて「???」ってなるのですが、
「お前だけでも逃げろ」というセリフ、
確かに人生で一度くらいは言われてみたいものだと思いました。

y551著

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