突然家族が増えた
「犬を飼うなんて聞いてないぞ!」
高校生活を満喫しているオレの住む実家に街中やペットショップで見かけるような柴犬のタロウが我が家に来たのは半年ほど前のことだった。
妹や母親が犬を飼いたいのは知っていたがまさかオレに内緒で飼うなんて夢にも思わなかった。
「だってお兄ちゃん反対するでしょう?」
そう言われるとぐうの音もでないが、しかしだからと言ってなんの相談もなく犬を飼おうとするだろうか。
不機嫌になりながらも結局はその柴犬を飼うことになったのだが、とにかく大変だ。
家の中でも元気に走り回り、散歩は三十分以上しないと駄々をこねて帰らない。ウンチだってブリブリと垂れ流しだ。
だが、そんなタロウと過ごしていると苦が苦ではなくなっていく。
なんだかんだ言ってタロウのことを気に入ってしまった自分が出来上がっていた。
そんな毎日であったが、この柴犬タロウが彼女との出会いを見つけてくれるだなんて夢にも思わなかった。

嗚呼、犬が飛んでいく
彼女と出会ったのはタロウの散歩コースの公園で休憩していた時だ。
あまりのタロウの元気ぶりに疲弊していたところ、突然タロウが興奮し始めた。
どうやら公園で若い女性が散歩させているメスの柴犬が公園に来たらしくそれで興奮し始めたのだ。
いつものことなのでメスの柴犬が去るまでヒモを押さえていたのだが、突然「キンッ」と金属音がした。
軽くなるヒモ、壊れている首輪の留め具、飛んでいくタロウ、思わず血の気が引いた。
「そいつ捕まえてください!」
思わず叫んだ、祈った、天にすがった。
そしてそれを叶えてくれたのは天ではなくメスの柴犬を連れた女性だ。
彼女はタロウを捕まえてくれたのだ、そうして彼女に対してこう思った。
「彼女は女神だと」

女神との付き合い
「本当に助かりました、道路に飛び出したらどうしようと・・・。」
思わず手を握り、何度も頭を下げた。純度百パーセントの本心であった。
「いえいえ、柴犬はヤンチャですから。ワタシのメグも最初のうちは本当に苦労したんで気持ちはわかるんですよ。」
そう言って苦笑する彼女の顔を見てみると、ふと見覚えがあるなと思った。
どうかで見かけたような、記憶の中を探り当てていると彼女の正体に気が付いた。
「もしかして生徒会長のユリ(仮名)先輩ですか?オレ、同じ高校のサッカー部のエンドウ(仮名)って言います!」
ユリ先輩は俺が通っている高校の中で一番頭がよく面倒見がよいと評判のまさに全男子の憧れの的、こんな所で出会えるなんて夢にも思わなかった。
「えっと、よく知らないんだけどエンドウくんはワタシの学校の後輩なのかな?」
「はいそうです!一年生です!」
元気よく挨拶をした、印象を良くしたかったからだ。
そんなオレのことを微笑ましい表情で見つめると、ユリ先輩はこう言った。
「じゃあ学校でもよろしくね?」
その一言でオレはユリ先輩に恋をした。

柴犬が紡いだ恋
ユリ先輩とは彼女が高校を卒業してからもやり取りを続けている。もちろん柴犬のタロウとメグもだ。
ユリ先輩はオレのことを単なる可愛い後輩だと思っているかもしれないが、少なくともオレはそれで終わらせたくはないと考えている。
まあそれはそれで気長に待とうと考えているので良いのだが、実はタロウとメグの方の恋の方が進んでいる。
なんとメグはタロウとの子供を妊娠しており、タロウはもう子供ではなくオレを通り越して子持ちの大人になったのだ。
なんだかな、とそう思いながらもオレの一生はタロウの一生の何十倍も長いのだから気にしないことにした。
まあ実は結構気にしているのだが、そんなことはすぐに頭から消し去るべきだろう。
なにせ、タロウこそがオレの人生を大きく変えてくれた一番のパートナーなのだから。

h516著




