男の言い分

広い海のように周りの人たちに恵みを与え、大きく包み込むものになれと、父が名付けた。
どこにいても人気者だった。
ガキ大将で、困ったことがあると必ず手を貸してくれる。
部活は、いくつかの運動部に所属し、大会のたびに呼び出されていた。
会社では、発言したことはみんなが賛成してくれる。
休みの日は、多くの友人が囲んでくれる。
だから。
「あの子綺麗だよな」っていう女を手に入れては連れて回り、また「この子綺麗だよな」っていうとその女に乗り換える。
そのわりに器が小さく、すぐキレるタイプだった。
幼稚園を辞めさせられた。
身体が特に大きい方ではなかったが、気に入らないことがあると口より直ぐに手を出してしまう。
一つ歳が上の男の子とけんかになり、椅子を持ち上げ頭に振り落とした。
そしてすぐ仕事辞める。
異常にコンプレックスを抱えてるのだ。
自分の弱いところを突かれると、ライオンが襲い掛かるがごとく、噛みついていく。
家族、友人、会社の上司、飲食店の店員にまで。
トラブルメーカーだった。
その割に、時間が経つと別人のように優しく、何事もなかったかのように振舞うので、周りの人たちは二重人格ではないかと思うほどだ。
そんな彼にも転機が訪れた。
美魔女に惚れたのだ。
尽くし、付き合っていた男性から奪い、離れなくさせるのはあっという間だった。
尽くす女 美月

学生の頃は自分で言うのもおこがましいが可愛らしく男子からはマドンナ扱いで、彼氏のいない時期が訪れたことはなかった。
23歳は同級生の第一結婚ブームだった。
コンパでは姉御肌が出てしまい幹事で盛り上げる側についてしまったから、キューピットになってしまい、婚期を逃した。
「理想が高いのかな」イケメンから内面重視に変えようと思ったが、内面ってどうやってわかるのかなという疑問も浮かんだ。
そんなとき、大海が猛烈アタックしてきた。
毎日の送り迎え
名店の食事
プレミアチケット
花束
お姫様抱っこ
からだの温もり
立て爪ダイヤ
落ちた。

好色男
大海は、明るすぎるコンビニ店の前で、マルボロボックスの底をトントンと叩き、火をつけた。
長い白い指に煙草を挟んで、肺をめぐった煙を深く吐いた。
一日の仕事の疲れを取るために、そして、帰宅したくない重い気持ちを和らげるように。
「ただいま」
その声は家に居る家族には届かない。
台所にあったシチューを温め、自分の部屋に持って入った。
ネクタイを緩めながら、パソコンの電源をつけた。
ごみ箱というホルダーを開けると、画面には昨晩ホテルで逢った未成年らしい童顔のリカが、大海を見つめて微笑んでいた。
大海の緊張がほぐれ、マウスをクリックした先には、セーラー服姿のパパ活募集欄に、ゆっくりうなずいてみせた。

子の言い分 息子の名は海輝

学校から帰ると、キンキンに冷えた牛乳を飲み干し、トントンと階段を駆け上った。
今日も塾をサボった。
宿題をしていないのをとがめられるのが嫌だった。
いつものことだ。
ペタンコの鞄を床に投げて、パソコンの電源をつけた。
ヘッドホンをつけて、ゲームに向かう。
もうネットオタク友人がお待ちかねだ。
「キャッほー!」今日一番の奇声をあげる。
ゲームは、何もかも忘れさせてくれる。
学校の煩わしさも、父への憎しみも、母からの期待も。
でも、もう限界だ。

女の言い分
美月は、頬杖をつきながら、トントンと万年筆で、スケジュール帳の空いている時間帯を探していた。
美容院とネイルサロン、エステサロン、美容外科をどこに滑り込ませようか迷っていた。
仕事は9時5時だが、育児休暇後にこの部署に配属され、毎日サービス残業でなかなか帰るタイミングがつかめない。
髪は白髪が目立ち、爪は縦に割れていく。
腹周りは肉付がよくなり、眉間にしわがしっかりと刻まれている。
大海は浮気をしている。
証拠は押さえられない。
夫婦喧嘩が絶えない。
海輝は塾どころか学校へも行っていない。
喧嘩を見せるのも子供への虐待と言われたので、息子を責められない。
誰にも相談できない。
真っ黒のテレビ画面に悲しみで口元がゆがんだ表情を明け方まで映していた。
100日分の睡眠薬を飲んでしまった。
浮気が引き起こした悲劇

雪がしんしん積もる静かな住宅地に、急にサイレンが鳴り響き近づいてきた。
部屋から大人一人タンカに乗せられて、救急車に運び込まれた。
警察が現場での実況見分をする。
海輝が部屋を指さした。
「娘さんの仇だそうです。」
中には刃物を持った中年男性が、わなわな震えていた。
美月は、泣き崩れていた。
「浮気相手の父の言い分」は、美月と海輝は、どう受け止めればいいのだろう。
yankye著














