
5月下旬の晴れた日、学校では毎年恒例の体育祭が行われていた。校庭には生徒たちの歓声や応援の声が響き渡り、空は高く澄み渡っていた。勝利を目指して各クラスが一致団結し、様々な競技で競い合う。生徒たちから出る熱気が校庭全体を覆い尽くしていた。
その中で最も注目を集めたのはプログラムの最後に行われる「学年選抜リレー」だった。
ウミは女子学年選抜リレーの選手として出場していた。全力を尽くしたが3位という結果に終わり、悔しさが込み上げ、涙が出そうになったが、どうにか堪えた。
体育祭も残すは男子選抜リレーのみだった。ウミは普段、大声を出す機会はあまりない。でも、体育祭の熱気や仲間たちの奮闘を見ると自然と応援に力が入った。

リレーの開始が迫るとともに、校庭の雰囲気が一段と高まった。ウミはトラック内の女子選手待機場所で応援する。リレーを間近で見られる特等席だ。
男子選抜リレーのメンバーには、あまり話したことのない同じクラスのシンジが選ばれていた。彼は普段目立たないが、足がとても速いことで知られていて、リレーのアンカーを任されるほどの実力者だった。
体育祭準備期間中、ウミとシンジは一緒に競技の準備をしたり、バトン練習をすることがあった。
しかし、シンジの寡黙な性格がなんとも近寄りがたく、ウミは彼に対して苦手意識をもっていた。
でも、今日は彼を全力で応援しようと心に決めた。
男子のリレー選手がスタート位置につく。
ウミは待機場所から離れ、シンジの所に駆け寄り、勇気を出してこう言った。
「私の分まで、よろしくね。1位とってね」
恐る恐るシンジの顔を見上げると、彼ははニヤッと笑い、こう言った。
「任せろ」
私の肩をポンと叩き、そのままスタート位置に走っていった。
ウミはその場で固まったまま動けなかった。シンジの好戦的な表情になぜか胸がドキドキして、触れられた肩が熱くなった。
しばらくして、ふらふらと待機場所に戻り、シンジの真剣な横顔をじっと見つめた。

乾いた音が鳴り響き、男子学年選抜リレーが始まった。次々とバトンが渡されていく中で、シンジのチームは他のチームに遅れをとっていた。
皆が「大丈夫かな…」と不安な表情を見せる中、ついにバトンがアンカーのシンジに渡る。
シンジがバトンを受け取った瞬間、その場の空気が一変した。
まるで時間が一瞬止まったかのように、校庭中の視線が彼に集まった。そして、シンジが地面を蹴り出すやいなや、歓声が爆発したように大きくなり、応援団の旗が大きく振られる。彼の一歩一歩はまるで大地を切り裂くような力強さで、走るたびに風を切る音が聞こえてくる。
観客たちは息をのみ、シンジの全力疾走を目で追う。彼が全速力で前を走る選手たちを追い抜いていく姿は、まさに圧巻だった。後方にいたはずのシンジが、みるみるうちに先頭に立った。

校庭の空気は最高潮に達した。応援する声がさらに高まり、まるでその声が彼の背中を押しているかのようだった。シンジはその声援を原動力に、さらに加速した。
瞬く間にゴールテープが近づいてきた。シンジは力強く拳を掲げ、満面の笑みでゴールラインを駆け抜けた。
ウミはシンジから一瞬たりとも目が離せなかった。応援しようとも音にならず、胸の鼓動だけがうるさく叫んでいた。風を切りながら誰よりも速く走っている彼は、とても楽しそうで、終始笑顔だった。

優勝が決まった瞬間、まるで雷が落ちたかのような大歓声が校庭中に響き渡った。仲間たちはシンジのもとに駆け寄り、喜びの輪が広がっていく。
勝利の余韻が残る中、ウミはただその場に立ち尽くしていた。心臓が早鐘を打つように高鳴り、彼の走る姿が頭から離れなかった。シンジが見せた圧巻の走りと、勝利の瞬間の王者の笑み。
それは、ウミの心の中に新たな感情を芽生えさせた瞬間だった。
彼が優勝を決めたことだけではなく、あの一瞬で見せた全力で頑張る姿と満面の笑顔に、ウミの心は完全に奪われてしまったのだ。
その日から、ウミはシンジのことを少しずつ意識するようになった。
授業中も、体育祭の、あの走りが何度も頭の中で繰り返される。彼の笑顔や話し声が、今までとは違って心に響くようになり、ウミはそんな自分の気持ちに戸惑いつつも、少し嬉しく思った。
次の日、ウミは勇気を振り絞って、シンジに「リレー、すごかったね!」と話しかけた。
シンジは照れたように笑いながら、「ありがとう」と返事をした。
その一言が、ウミにとってとても特別なものに感じられた。
それからというもの、ウミはシンジと少しずつ距離を縮めていった。体育祭をきっかけに芽生えたこの気持ちは、やがて二人の関係を変えていくことになった。
728著






























