通勤・通学にて出会う

いつも私と同じ電車に乗る男性。ちょっと変わった私の初恋話。

私が彼と出会ったのは高校一年生のことです。

私の通う高校は、近隣に別の高校や大学が密集している地域で、通学に使う電車内はいつも大勢の学生たちでとても賑やかでした。

そんな電車内で、毎日一人で乗る男性がいました。

高校からの帰宅の電車でその男性はいつも私と同じ車両に乗り、一番端の優先座席に座って音楽を聴きながら本を読んでいるようでした。

少し長めの茶髪に派手目な服装で大きなリュックを持った彼の姿に、

「いくら周りが学生ばっかりだからって優先座席にいつも座って、本当に必要な人が来たら譲るのかな……」

と、内心はそう思いながらも、見た目が派手で絡まれたら怖い人かもしれないと、特に話しかけたりはせず普段通りの日常の一部として眺めているだけでした。

そのまま特に何事もなく月日は流れ、その年の12月に入った頃のことです。

普段通り私は電車に乗り、いつもの派手目な服装の男性が乗車する駅に到着した時のこと。

電車のドアが開いたのに、その男性は電車に乗ろうとせず、電車とホームの間をのぞき込んで一人慌てているようでした。

「電車から離れてください。」とのアナウンスが流れても一向に電車に乗らず、周りの学生たちがその男性を見ながらヒソヒソ話しだした中、私は何を思ったのかその男性の腕をつかんでホームのベンチまで引っ張っていきました。

すぐに電車の扉は締まり、ホームに残された私とその男性。

そこは私の降りる駅じゃないし、何よりもその派手な男性の腕を無理やり引っ張ってしまったことで男性に何かされるんじゃないかと、恐怖でビクビクしながら男性のほうを見ました。

するとその男性は、半分泣きそうな顔をしながら私に”何か”を訴えてきました。

“何か”というのは、私がその言葉が聞き取れなかったため。

次第に落ち着きを取り戻した男性は自分の耳に手を当て、次に線路のほうを指さし、

「ほちょうき、を、おとした……」

とゆっくり話してくれました。

その時やっと状況が分かった私はその男性にベンチで座って待つように伝え、すぐに駅員さんに補聴器が線路内にあるまでを言いに行きました。

幸いにも補聴器はホーム下の待避スペースに落ちていたようで、若干の傷はあったものの故障せず無事に男性の手元に戻りました。

「ありがとう!」

補聴器が戻った彼は私に笑顔でそう言い、私も安心して

「無事でよかったですね!」

と、彼が聞き取りやすいように伝えました。

次の電車が駅に到着し、いつも通り同じ車両に乗り込む私と彼。

私は照れと非日常な出来事からその場に居づらくなり、彼に会釈をしてその日は別の車両に移動してしまいました。

「意外と優しそうな人だったな……」

「イヤホンで音楽聴いてると思ってたら、補聴器だったんだ……」

「明日も同じ電車に乗るならまた会うんだよね……」

脳裏にいろんな考えが巡り、ソワソワと落ち着かない帰り道になりました。

それから一週間ほどたった日。それまで何となく彼と会いづらい気持ちで別車両に乗っていた私は、彼に会いたいような複雑な気持ちでまたいつも乗っていた車両に乗りました。

そして彼の乗る駅。

いつもと同じ派手目な服装に大きなリュック、そしてイヤホンだと思っていた補聴器を付けた彼がいました。

電車に乗り込み、私がいることに気が付いた彼は優先座席のほうへは行かず、まっすぐ私のほうへ近づいてきました。

ドキドキする気持ちを表情に出さないように笑顔で会釈する私。そして同じく会釈する彼。

彼はメモ帳とペンを出し何やら書き始め、私に手渡しました。

「筆談ですがお話ししませんか?」

それを見た私は大きくうなずき、それまで何の変わり映えもなかったいつもの電車の時間が、彼との筆談での会話の時間に変わりました。

そこで私たちはたくさんの会話をしました。

私のことは春から気付いていたこと。彼が近くの大学に通う学生だということ。マフラーを結びなおそうとして補聴器を落としてしまったこと。

最初はそんな他愛もない会話から始まり、私はどんどん彼に惹かれ始めていました。

しかし一月に入った頃、そんな楽しい時間もすぐに終わりが来てしまいます。

「僕は東京での就職が決まっていて、一月いっぱいでもう同じ時間にこの電車に乗れない。」

そのメモを見せられた時、私はとてもショックでした。

ある日の非日常な出来事から始まったささやかな楽しみの時間。それがこんなにもすぐ終わってしまうなんて。

それからの内容はあまり覚えていません。

ただ、一緒に会話できる最後の日。あの時に渡されたメモの内容はずっと忘れません。

「一生懸命勉強して、立派な大人になってください。ずっと応援しています。」

それから二年半がたって、私はまだ同じ時間、同じ電車に乗っていました。

あの時の彼と同じ大学に通い、叶うはずもない若干の期待を胸に抱きながら。

「あの人はまだどこかで私を応援してくれているかな」

 

osako著

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