あの日の約束

「25歳になってもお互いフリーだったら、結婚しよう」
高校を卒業する時に、幼なじみに言われた言葉だ。
もうすぐその、25歳になる。
幼なじみのAくんとは、小学生からの付き合いだ。中学、高校と同じ道を辿(たど)った。家も近所で親同士も仲が良く、何となくいつも隣にいた。
特に恋愛対象としてみたことは無かったので、その言葉には少し驚いた。
中学、高校と、私もAくんもお互い恋人がいたし、恋人がいても居なくても、Aくんとの関係性が大きく変わることはなかった。むしろ恋愛相談も沢山した。
そんなAくんから発せられた突然の言葉に、何と返答したのかは覚えていない。たしか肯定も否定もしなかった気がする。
ずっと一緒に育ってきたAくんと一緒にいる時間は居心地が良かったし、何となくずっといるんだろうなという思いもあったので、私も満更でもなかったのかもしれない。
あの時、Aくんは何を思っていたのだろうか。
再開

高校卒業後、Aくんは東京の大学に進み、私は地元に残った。
なんとなく連絡はとっていたが、会うことは無くなった。
特に寂しいとも思わなかったし、あの約束もいつの間にか頭の隅の方に追いやられていた。
だが22歳の時に、Aくんは地元に戻ってきた。
私もAくんも、地元での就職となったのだ。
「久しぶりに会おうよ。もうお互い大人になったし、お酒でもどう?」
そう連絡が来たのは、就職して半年ほど経った時だった。
すぐに返事をした。「いいよ」と。
高校を卒業してから1度も会っていなかったので、楽しみな気持ちと緊張が混じりあった、不思議な気持ちであった。
久しぶりに会ったAくんは、最初こそ緊張して何を話せばいいのか分からなかったものの、すぐにあの頃を思い出して、色んな話に花を咲かせた。
高校時代の話、大学の話、今働いている会社の話。何も考えずに気楽に話せるこの感覚に、懐かしさすら感じた。
大人になって、肩幅と話の豊富さが広がったAくんに、ちょっと男らしさも感じた。
それから私たちはちょくちょく会うようになった。
会社の愚痴も当たり前にこぼせるし、自分のわがままをこぼしても何も怒らないAくんの存在が、私の中でどんどん大きくなっていった。
当時私には彼氏がいた。Aくんには、彼女がいるかどうかは聞けなかった。
Aくんの存在が自分の中で大きくなるにつれて、彼氏ともだんだん距離ができ、結局24の時に別れてしまった。
約束の時

年に何回か会うようになり、3年が経った。お互い、25歳になる年だ。
Aくんの方が私よりも1ヶ月だけ誕生日が早い。
Aくんの誕生日に、おめでとうと一言、LINEを送った。その時私はあの約束を思い出した。
「25歳になって、お互いフリーだったら結婚しよう」
特にその約束に触れる勇気も無かったし、Aくんからは「ありがとう。アラサーの仲間入りだよ〜(笑)」
とだけ返ってきた。
もしかしたら、あの約束をいつまでも胸に残していたのは、私だけなのかもしれない。
そして、1ヶ月後、私の誕生日。
突然Aくんから連絡が来た。
「今日、何してる?」
ドキリとした。
いつもと変わらない文面だったのに、何を期待したのだろうか。
このドキリという感情が、嬉しさなのかなんなのかすら、分からなかった。
結局断る理由も思いつかず、私は25歳の誕生日の夜、Aくんと会った。
何気ない会話ばかりで、気取らない時間だった。
そして帰り際
「もう7年も経つけど、あの約束、覚えてる?」
Aくんがそう言った。
あ、、と思った。
沈黙の後にAくんがまた口を開いた。
「俺はずっと、あの約束、叶(かな)えたいと思ってた。」
私は一体どんな顔をしていただろうか。
その場にいられず、今日はありがとうとだけ行って、その場を去った。
やってしまったと思った。
忘れたフリをすれば良かったのか。それとも、覚えてるよと言えばよかったのか。
どっちにしても、最悪な態度だったと思う。最悪な態度しか、取れなかったと思う。
結局私はあの約束をした高校卒業の時と同じなのだ。肯定も否定も、出来なかったのだ。
家の玄関に手をかける時、スマートフォンが震えた。
Aくんからだった。
「突然ごめんね。でも、俺は君と付き合いたいと思ってる。高校の頃から、ずっと。」
ストレートすぎる文章だった。
1晩考えた。
1晩考えて、分かった。
わたしはただAくんを手放したくなかっただけなんだと。
自分が恋愛感情をAくんに対して持っていないことも、Aくんが自分のことを、1人の女性としてみていることも、全部頭で気づきながら、今の関係性を手放したくなくて、ずっと見ないふりをしていたのだと。
7年間ずっと、いや、それよりももっと長い期間ずっと、私とAくんはお互い違う感情を持って一緒にいたのだ。
交わることなんて、無かったのだ。
気の知れた幼なじみなんかじゃなかった。
そう思いたかっただけだった。
Aくんになんて返信するか、悩んだ。
このまま友達でいたい、と打ち、何度も消した。
そして決めた。
もう、これ以上一緒にはいれない、と。
ごめんね、さよなら。
それが私たちの最後の言葉となった。
mmokoyo著






























