面白い出会い

南国のこの道は進むも地獄、戻るも地獄

これは私が旅先で出会った男女の話です。

ただ見かけただけの二人だった

私は新型コロナウイルスが流行するより前、春に友人と沖縄へ旅行に行くのが恒例でした。春先で肌寒い日もあったりする本土とは違い、夏日になることもある温暖な沖縄でのんびりと、そして沖縄料理に舌鼓を打ち、綺麗な景色を眺める日々を約1週間ほど過ごす。お互いにこの旅を目標に一年頑張ると言っても過言ではないほど贅沢な沖縄での日々は正に魂の洗濯でした。

毎年世話になる宿は毎年大体同じで、あまりレジャーにも出かけることがないのが常でしたが、この年は珍しく『たまには、日帰りで行ける離島にでも行ってみようか』と話をしていました。私たちはいつも沖縄本島でのんびりと羽を伸ばしているのですが、調べてみると、日帰りで行ける離島というのはいくつもあり、その中で私たちはある島に目をつけ、天気のいい日に行ってみることにしました。

フェリーで本島の港を出て約20分ほどでその島に到着しました。初めて降り立ったその島はとても静かで、できれば泊まりたいほどでしたが、泊まれるような荷物は持ってきていませんでしたので、ひとまず帰りのフェリーの時刻だけ確認し、さてこの島をどうやって見て回ろうかと観光案内板を見ていると、港のすぐ近くにレンタサイクルがあるとのこと。私たちは迷わず自転車を借りることにしたのですが、同じように自転車を借りる人が数名並んでいました。並んでいるとは言っても十人もいないほど。待っても大した時間ではありませんでした。

そのときです。後ろから男女の声が聞こえてきました。

「ねえ自転車借りようよ」

という女性の声に続き、

「並んでるし、大して広くもない島なんだから自転車なんていらねえよ。歩けばいいだろ」

という男性の声。

私はたまたま二人の姿が目に入ったのですが、二人はそのままどこかへ歩き去っていき、私も特に気にも留めませんでした。

まさかの再会

さて、無事に自転車を借りた私たちは島のあちこちを巡りました。誰もいないビーチを走り回ってみたり、大きなガジュマルの木の前で写真を撮ったり、農作業をしている地元の方とちょっとお話をしてみたり。都会ではおよそ見られない様々な景色に大満足。でもまだ帰りのフェリーまではまだ時間がありました。さてどうしようかと友人とレンタサイクル屋で貰った島の案内マップを見ていると、ちょうど自分たちがいる場所からまっすぐ伸びる一本道を2kmほど行ったところに岬があるようでした。

「行ってみよう!」

私たちはハンドルを握ってペダルを漕ぎました。途中までは道も舗装されていたのですがいつのまにかその舗装はなくなって砂利道になり、時折ハンドルが取られます。綺麗な景色でも見ながらのサイクリングになるかと思いましたが、細い道の両サイドは南国でよく見られるような背の低い木が生い茂り、特に海も見えません。脇に逸れる道もありません。それでも初めて見るような景色やガタガタの道に私たちは『すごい道だねえ』『道がガタガタすぎてお尻が痛いよ』などと笑い合いながらペダルを漕ぎました。そしてその2kmの道の先には絶景がありました。長い間に渡って打ち寄せられた波によって浸食された岩場。その岩場の向こうには空との境界がよくわからないほどの青い海。私たちは自転車を道の端に停め、岩場のギリギリまで行って写真を撮ったり、岩場に仰向けになって全身で海風を感じたり。

ふと時計を見ると、そろそろ港に向けて戻らないといけない時間になっていました。私たちは再び自転車に乗り、元来た一本道を戻ることにしました。

10分ほど走ったときでしょうか。行きよりも少しだけスピードを上げて自転車を漕ぐ私たちの視線の先に人影が見えました。ああ、きっとあの人もあの岬を目指しているんだろうな、でもここから歩くとなるとまだ20分くらいかかりそうだけど、などと思っていたのですが、近づくにつれてそれが見覚えのある人であることに気が付きました。その人はレンタサイクル屋で「自転車は借りなくていい」と連れの女性に言っていた男性だったのです。でもあのときは確かに連れの女性がいたはずなのにどうして1人なのだろう。

と、向こうからもう一人歩いてくる人影が見えました。「自転車借りようよ」と言っていた女性です!俯き加減で表情は見えませんでしたが、男性と女性の間には約30mほどの距離が空いていました。男性は女性を待つでもなく気遣いをするでもなく無言で歩いていて、女性も特に何かを喋るでもなくただ無言で歩いていました。

私たちは思わず自転車を停めて二人を振り返りました。

「……ここからだと岬まで歩いたら20分はあるよね」

「戻るにしても30分はかかるよね…」

この先の道がどういう道か私たちはよく知っています。岬までは特に海も見えず、ただ木々が道の両サイドを覆っている変わり映えのない景色の道。そして舗装もされていないので歩きにくい道。その道を彼らは歩くしかないのです。

更には、お互いを気遣うこともなくただひたすら無言で岬に向かって二人は歩いていきましたが、行ってしまったらまた同じ時間をかけて歩いて戻ってくるしかないのです…。

二人の仲にヒビが入らないことを切に願いつつ私たちは港に戻って自転車を返却しました。その後、私たちは帰りのフェリーに無事に乗りましたが、そのフェリーの中には、あの二人の姿はありませんでした。

私たちが乗ったフェリーは、その日、本島に戻る最終便でした。

kurey著

出会い系マッチングサイト情報