『バンドメンバー募集!!』

学生時代バンドをしていた。学校内外でいくつか、それぞれ違うジャンルだった。
そのうちのひとつが活動をやめることになり、新しいバンドのメンバーを集めようと考えた。
当時のメンバー募集の方法は
・音楽雑誌のコーナーに載せてもらう
・大きめの楽器屋にお願いして自作の募集ポスターを貼ってもらう
というのが主流であった。
そうして何人か連絡をもらったのだが、なぜかほとんどが男性。『あわよくば』とでも思ったか。そういう人ははっきりとお断りし、本当にバンドをしたいと言う人たち何人かと会うことにした。
その中にトシキと言うなかなかのヘヴィメタルなお兄さんがいた。
腰まで伸びた金髪、細いウエストに革のパンツ。
本格的なメタル人間を生で見たのはその時が初めて。電話で話した時はか細い声で優しい話し方だった。
待ち合わせ場所で、こちらへ向かってくる派手なお兄さんに「まさか」と思った。
「トシキだけど・・・」あーこの声、やっぱりこの人だわ。通り過ぎる人たちがチラチラとこちらを見るほど目立っていた。
人違いだと言って逃げることもできたのに、「あ!初めまして!!」と返してしまった。好奇心が勝ったらしい。
結局トシキとバンドをすることはなかったのだが、しばらく付き合いが続くことになるのだった。
ヘヴィメタル好きなお兄さん

トシキは私と同じ市内に住んでおり、週に何度か会ってお茶を飲んだりした。
たまに家に電話をくれるのだが、苗字ではなく「トシキですけど」と名乗るようなちょっと変わった人だった。
いつ会ってもトシキは派手な格好。通行人にジロジロ見られるのにも慣れた。
一度学校の友達に見られて色々言われた。「彼氏すっごい派手で怖そうよね~」
付き合っていたわけではないけど、面倒なので「まあね」と応えていた。
トシキはその見た目通りヘヴィメタルが好きで、そういうジャンルに疎かった私には刺激的だった。
海外のバンドをいくつも教えてもらい、CDを借りて家でヘッドフォン装着で聴きまくった。
トシキの友達と私の友達を連れてきて、4人でライブに行ったことがある。海外の有名バンドで、事情によりライブが何日か延期になり、その日が振替だったのだ。
ライブ会場前で待ち合わせていたのだが、トシキが連れてきた友達は更に派手だった。真っ青に染めた髪をツンツンに立てて、顔の至る所にピアス。
目立ちすぎていたのか、取材に来ていた音楽雑誌の記者にインタビューをお願いされた。
「お兄さんたち、なんかすごいですね~!!ライブが延期になったこと、どう思います?」
「延期になった時は残念だったけど、中止にならなくてよかったなーって思いました!」
見た目に反して、彼らは友好的に応じていた。私の友達は「すごい人と知り合いなのね」と半笑いであった。
私にとっては『ヘヴィなお兄ちゃん』であり、トシキも私のことを妹のようにしか見ていなかったと思う。
お互い変に意識することなく、バランスがとれた仲だったように思える。
メンバー募集で連絡をくれた人の中にトシキを知る男性がいた。この人はもう少し軽めのロックな人だった。名前は忘れてしまったけど、その人はプロを目指すギタリストだった。
その人との話の中で私がトシキと知り合ったことがわかり「あいつは気をつけたほうがいい」と言ってきた。
「腰が低くて優しそうに見えるだろうけど、実はとんでもないやつだから」
その時は「そうなの?」と思う程度だったが、後にトシキの本性を知ることとなる。
大金が入った封筒

当時の私はバイトやバンドなどで忙しく過ごしていた。一応学業もそれなりに頑張っていたつもりだ。
トシキとは電話で話すことはあっても、会う機会は徐々に減っていった。
ある時期からトシキが電話をかけて来なくなった。私もトシキのことを考えなくなっていた。
そんなある日、トシキから分厚い『現金書留』が届いた。二日に分けて2通届いたのだ。
家族に相談して、一緒に中身を確認することにした。
現金書留なので、当然お金が入っていた。2通合わせて60万円。「なんだこりゃーーー!!」と絶叫した。
トシキって時々電話があった人でしょ、どういう人なの?こんなものを送られる理由があるの?
そんなの私が知るわけない。
封筒の中をもう一度よく見てみると、手紙が入っていた。
長々と書いてあったが、要するにそのお金をある場所に私の名前で送って欲しいと言うことだった。
トシキは刑務所に入っていた。手紙には「何かの間違いでこうなった」と書いてあった。
そしてそのお金を刑務所に送って欲しいとのことだった。
何があったかも知らないのに刑務所?間違い??全く意味が分からない。
そこで「トシキに気をつけろ」と助言してくれたロックなお兄さんに電話をしてみた。
彼によると、トシキは新聞に載るほどの暴行事件を起こしたそうだ。知らなかった。
それ以前にもあちこちでトラブルを起こし、アマチュアバンドマンの間では総スカンを食らっていたそうだ。
そんなものは一日も早く手放したい。
翌日郵便局へ行き、トシキに言われた通りお金を送った。
私に届いた書留封筒を破って開き、空白部分に文句を書きなぐった。
「あなたが何をしたかは知らないけど、いきなり大金を送りつけられて迷惑だった。これをそちらに送るのに送料がかかるって知ってた?なんで私がそれを払わなければいけないの。二度と関わりたくない。出所しても連絡してくるな」
みたいなことを書いたと思う。
幸いトシキとはそれっきりだ。
それから一年ほど経った頃だったと思う。別のクラスの女の子(顔を知っている程度)がやって来てこう言った。
「トシキって人知ってるでしょ?学校名言ったら○○さん(私)の名前が出たわ」
彼女がその後どうなったかは興味がないため知らない。
koinobori著







