今回は、大学生時代の弁当屋でのアルバイトでのお話。個性的なお客様が多く来店される中で、特に印象に残っている人の思い出である。
癖がすごいお客様ばかりのバイト先

私が勤務していたアルバイト先は最寄駅から歩いて5分程度のところにあり、大学の近くということで学生用の賃貸マンションが特に多かった。とにかく、このアルバイト先のお客様は癖が強めの人ばかりだった。
家族連れや仕事帰りのサラリーマン、学生さんが特に多かったのだが、中には素性がよくわからない人も来ていたことがある。
私がよく覚えているのは、毎日17時半~18時の間くらいに来るおじいさん。いつも買って帰るのは幕の内弁当とライス単品の大盛と決まっている。私がレジに出るといつも、「○○ちゃんいないの?」とある女子アルバイトがいないか聞いてくる。
「この助平め…」と心の中で思いながら接客するが、いてもいなくても特段態度を変えることはなかったので悪い人ではなかったようだ。

また、一度だけ酔客とケンカになりかけたことがある。その男性客は奥さんと同伴でやって来た。注文するときの態度は至って普通だったが、待っている間になぜか持っていたウイスキーの小瓶をあおりだしたのだ。その後、商品を提供する順番に不満があったのか、怒りのボルテージを急上昇させて私につっかかった。
「表出ろォ! ケンカじゃア!!」 奥さんがたしなめ、注文はキャンセルしていただいた。他のお客様の迷惑になるので、ご退店をお願いするとその男性客は奥さんに押さえられ、名札に書いてあった私の名字を叫びながら店から出ていった。
また、私が主に担当していたのはレジだったが、多客時には厨房のフォローに回ることもあった。炒め物を作ったり、揚げ物を揚げたりと臨機応変に動かないといけない仕事だったので、頭と体をフルに動かさないと店が回らない。
この店は癖のある人が多く来店し、しかも臨機応変に動かないといけないので非常に大変なアルバイトだった。しかし、今考えるといい思い出として笑い話にできるのだから悪いアルバイト先ではなかった。
私に熱視線を送るアフリカ系の女性

そんなある日、アルバイト先に一人の女性がやって来た。肌の色からしてアフリカ系、脚が長くてスタイルはかなりいい方ではなかったかと記憶している。「常連」というほどいつも来るわけではないのだが、月に数回来店されるお客様だ。
その日、私はレジを担当していた。私に向かってニッコリ笑い、レジの前にあるメニューを見つめ、吐息交じりの「ん~」という声が聞こえた。商品数が多いので、メニュー選びに時間をかけるお客様は多い。
その時間は30秒ほど続いた。そして、私の方を見つめてニッコリと笑って流ちょうな日本語で「これにします」とメニューを指さした。
商品を作って、番号でその女性を呼び出す。女性は「わたし?」とレジに近づいてきた。受け取るときも笑顔で「ありがとう」とにこやかに受け取って去って行った。

その後、彼女は数回に渡ってアルバイト先にやって来た。そこでわかったことは「私のことが気になっているのではないか?」ということ。
店に来た時のしぐさはいつも決まっていた。まず入店したら私に向かって微笑みかけ、メニューを見つめて長考する。注文を終えて、レシートと番号札を受け取るときも私に向かって柔和な笑顔を浮かべている。
特に言葉はないのだが、私には彼女から送られる熱い視線を感じずにはいられなかった。私の勘違いかもしれないが、何らかのメッセージが送られていたことは明らかだった。
実際に先輩や同僚もその視線を感じていたらしく、「あの人、お前のこと気になってるんじゃない?」と声を掛けてきた。他の人から見ても熱烈な視線を送っていたようで、厨房で商品を作っている時もレジ越しにこちらを覗いているように見えた。
しかし、マニュアルに沿った会話以外は特に何を話すわけでもなかった。向こうが恥ずかしがっていただけなのか、それとも特段何も思っていなかったのかは今でも定かではない。
時が流れ、また彼女がやって来た。ここで私は彼女のお腹が大きくなっていたことに気が付いた。子どもが産まれてくるのだろう。その日も私に熱烈な視線を送っていたが、この日以降彼女が店に来ることはなかった。
その後、彼女がどうなったのかは知らない。しかし、お子さんの出産を控えていたのならば幸せになっていることを願いたいものだ。
711著






























