私は31歳、1年前に35年ローンで建てた一軒家に夫とふたりで暮らしている。
子供嫌いの夫の影響もあり子供は作らないで、気ままに年に何回かは旅行へ行ったりして
余裕のある生活を送っている。夫は会社員、私は派遣社員として働いていた。
派遣されていた企業との契約期間が満了したので、次の働き先を探していた。

出会い
1社書類選考をパスして、試験と面接を受けることになり。会場へと向かった。
会場近くで、1台の車とすれ違った、採用試験を受ける社名が入った車だ。
運転している男性を見た。きれいで整った顔の人、何歳ぐらいの人なんだろう?
少し早く着いたので、少し車で待機して面接での受け答えを頭の中で練習をして
予定の時間になったので、会場の中へ入り受付へ。
スーツを着た背の高い人が目に入った。爽やかな笑顔で迎えてくれたその人は、
さっき車ですれ違った男性だった。無事に採用が決まり、彼と同じ職場に。
彼は、外回りから戻り手洗いをした時、必ずきれいにアイロンがされたハンカチをポケット
から出し手を拭いていた。その左手には指輪があり、少しがっかりしたような、
少し安心したような、複雑な気持ちがした。

きっかけ
会社のイベントがあり、彼と私が担当になった。会場まで距離があり、前日から会場の設営
に入るため彼の運転する社用車で向かった。彼とはあまり話をする機会が無かったので、
長時間いきなり二人っきりの車内で、緊張のせいか何を話したのか覚えていないほど
だった。夫以外の人と二人で車に乗ったのは初めての経験。
設営する会場はエアコンが効いていたが、外から搬入する作業をしていたので、7月中旬
暑さで汗をかいていた私に、さりげなく彼はタオルを渡してくれた。
「まだ使ってない新品のタオル車にあったから、嫌でなければ使って」
その後も、設営が終わり、リハーサルに入るためスーツへ着替えないといけなくなった。
更衣室はなくどうしようと困っていたら、
「車エンジンかけてエアコンかけてるから、後ろの席なら着替えられると思う」
さりげなく車のキーを渡してくれた。スマートに気配りのできる行動に、少しどきどき
した。

思いがけない誘い
彼とは、時々たわいもない話をするようになった。そんなある日、彼が退社することを
ほかの人から聞いた。そうなんだ、、、私は、なんだか少し寂しく感じた。
事務所で一人でいたときに、彼が外回りから帰ってきた。忙しそうにしていたので、
声をかけず、私は黙々と仕事をしていた。
急に背後から彼が話しかけてきた、
「もうすぐ会社を辞めるから、その前に二人で食事でもいきませんか?」
え?なんて言った?嘘でしょ、食事?二人で?驚きと嬉しさと戸惑いで、返事ができず
にいた私に。考えといて、と言い残して彼はまた外回りへ出掛けて行った。
食事に行く、二人で、これは浮気になるの?いやお互い既婚者だし、同僚だから普通?
私は、答えを出せずにいた。友人や姉に相談をしたら、別に食事ぐらいいいんじゃない?
と軽く言われた。そうだよね?浮気ではないよね?言い聞かせるようにして、彼に
OKと返事をした。心臓がバクバクしていた。
食事へ行く日、夫には友達とご飯へ行くとだけ報告して家を出た。すごく悪いことを
しているようで落ち着かなかった。仕事が終わり、ドキドキしながらその店に行った。
お互いの緊張が伝わり、少しぎこちなかった会話も、お酒が進むにつれ自然となってきた。
急に彼が、
「そんなに、気を遣わなくていいよ、そんなことで怒ったりしないよ!」と言った。
私はモラハラ夫のおかげで、知らず知らずのうちに、相手の反応を見ながら言葉を選び
行動にも気にかけながら動いていたことに気づかされた。そして、そんなことで怒ったり
不機嫌になったりしないと言ってくれた彼に、心の安らぎを感じた。
私は、夫といるとき、少なからず緊張感があり、安らぎは感じていない。どこで怒り、
不機嫌のスイッチが入るのかがわからないからである。そんな夫の話を、しんどいね、
つらいねって共感して聞いてくれてる彼。なんか心がすっと楽になった。

別れの時
あっという間に時間が経ち、別れの時が。
店の外に出たとき、突然後ろから抱きしめられた。驚きと同時に、その居心地のよさに
腕を退けることができなかった。「今日はありがとう」彼はそう言った。
こちらこそ、ありがとう。言葉になくても、抱きしめられた温もりから伝わる気持ちが
とても嬉しかった。
彼が独身だったら、そう思ってしまう自分がいた。頼ってはだめ、甘えてはだめ。
自分に言い聞かせ、夫の待つ家に向かって歩き出した。

723著






























