
大学を卒業して、私は念願の教師となった。初めて親元を離れての一人暮らし、そして初めて一社会人として働くことに胸を弾ませていた一方で、2〜3ヶ月が経つ頃には、うまく自分のクラスを作り上げることができず、学級崩壊寸前と言ってもいいほどボロボロの状態であった。
恋をするなんて余裕、全くない。22歳という恋愛を楽しむ絶頂期にも関わらず、そんなことを考えることすらできず、むしろ、仕事もうまく行っていないのに、恋なんてしている場合じゃないというのが正直なところであった。

そんな私が唯一心を休められたのが、月に1回の初任者研修の時間であった。同じ初任者と言っても普段は異なる学校で働いているため、ほとんどが初対面。人見知りの私は、億劫にしか思っていなかった。初めての研修で初任者研修のグループ発表があった。男4人、女3人の7人チーム。そのチームで1年間、色々なグループワークを行っていく。まるで学生のノリじゃないかと少し小馬鹿にしていた私であったが、いざ集まってみるともちろん初めは辿々しい仲ではあったが、色々な情報を交換しあったり、何気ない話をしたりできることが嬉しく、研修も悪くないなと思う私がいた。
もちろん、そのグループの雰囲気がよかったということもあるのだが、それ以上にそのグループをまとめてくれる1人のA先生に尊敬できたというのも正直なところである。人見知りの私とは真逆で、気さくにグループの話をまとめていて、誰に対してもフレンドリー。本人は、「自分人見知りなんで…」なんて言っていたが、私からしてみればいやいやそんなわけ…と思っていた。久しぶりに、人としても、そして教員としてもすごいなと心から憧れているわたしがいた。私自身それが憧れなのか、それとも恋心なのかわからないまま、ただ時間だけがすぎていった。

グループの中も深まってきたある研修のあと、A先生が「ちょっとみんなで飲みに行こうよ!」と提案してくれた。これは、距離を深められる絶好のチャンスかもとワクワクしていた。研修を離れても、教育の話ばかり。さすが、先生だ。だが、お酒が進むにつれて、徐々にプライベートな話になると、わたしの待っていた話題、恋人についての話になっていた。
「え、A先生、彼女いないの?」全員が口を揃えて、いった。「大学時代に付き合っていた子がいたけど、今は、学校のことばっかりで。」と言っていた。わたしにとって、これほどの朗報はなかった。しかしながら、それを聞けただけで、満足してしまっている自分がいた。私は、会って、たわいもない話をして、元気をもらえるだけでよかった。何か行動を起こして、この関係が崩れてしまうのが、怖かった。
何も行動を起こせないまま気づけば、あっという間に年の瀬が近づき、私は大学の時の親友に相談していた。「これって、恋なのかな」と。親友は、「もしA先生に彼女がいるって聞いたら、どう思う?」もちろん私は、その先生に彼女がいて幸せなら、私のでるところじゃない。人の恋愛を邪魔してまで、自分が幸せになりたいとは一ミリも思わない。それが素直な気持ちであった。
すると親友は、「もし、その先生が今はフリーなのに、ぐずぐずしているうちに彼女ができちゃったら?」とまるで背中を後押ししてくれるような言葉をかけてくれた。もし、自分に自信があったら。もし、相手の心を読むことができたら。どんなに楽だろうと何度も思った。

そうこうしているうちに1月の最後の初任者研修になってしまった。わたしは、2人になったタイミングで、ご飯に行こうと声をかける!そう心に決めていた。ようやくこれを逃したら、後悔するだろうという思いに火がついた。しかし、そういう日に限って、みんながグループの解散を惜しむかのように常に7人行動。流石に、他のメンバーがいる前で、「A先生、ちょっと…」なんて、声をかけられるわけがない。そのまま時間だけがすぎてしまい、結局何も行動に移せない残念なわたしのまま終わってしまった。でも、もう会えないかもしれないのなら、恐れるものは何もない。わたしは、2月14日、片思いの女の子にとって、最強の日。
わたしは、定時に職場を離れた。平日ということ、また手作りだとちょっと重たく感じられそうと思って、そのままデパートに直行。すでに多くのチョコレートは完売していたがなんとか、お酒好きのA先生にぴったりのものを見つけることができた。勇気を振り絞って、わたしはメッセージを送った。
「お疲れ様!」
「もう職場離れたりしてる?」
すぐに返信がきた。
「どした????」
彼らしい答えだ。
「もしよかったら、チョコレートもらってくれないかなと思って🙇♀️」
既読がつく。わたしは、すぐに返信が来ると思って、スマホを握りしめていた。1分経っても返信が来ない。イエスかノーなのになぜこんなに時間がかかるんだ。焦りと共に不安の方が断然優っていた。
数分後、彼から長文の返信が届いた。そこには、ちょうど最後の研修のあとから、別の学校の先生と付き合い始めたとの内容が書いてあった。私の気持ちはとっても嬉しいけど、ごめん、受け取れないと。彼らしく最後まで、丁寧で優しくて、余計に辛くなった。
「ごめん、彼女いるからもらえないや!」これくらい軽く返してくれればよかったのに。デパートの駐車場の車の中で、涙が溢れて止められなかった。もっと早く行動していたら、変わっていたのかな。わたしが、選んだ人は最後まで完璧な人だったな。
片思いというのはなんとも辛いが、1人の女性としてまた強く成長させてくれたように今は振り返ることができる。

n606著





























