モテ期

私は人生で一度だけ、いわゆる「モテ期」が訪れた事がある。
人生で3回訪れるとかなんとか聞いた事があるが、今のところあの学生時代の頃の一回だけだ。
なぜかはわからないが妙に告白され、妙に声をかけられる事が多かった。特にきっかけがあった訳でもなく、見た目が劇的に変わった訳でもない。
実のところ、あれを「モテ期」と呼んでいいのかもわからない。ただ友人にあの頃の話をすると「モテ期」だったねと言われるから、「そういうものか」と思っているだけである。
そして正直あまり良い思い出ではない。「モテ期」と聞くと良い風にきこえるかもしれないが、興味のない人間にやたらと声をかけられても正直困るだけである。
振った後は気まずいし、気を遣う。かといってホイホイ付き合えるほど器用でもなかった私にとっては、なぜこんな風に関係を変えようとしてくるのかわからなかった。
その中でも特に困らされた人がいる。ある意味忘れられないあの人は、今思うととても純粋な人だったのだろうな、と思う。ここでは仮にKさんと呼ぼう。
Kさんとラブレター

Kさんとは友人からの紹介で知り合った。同じ趣味の友達が欲しかった私は、Kさんも同じ趣味を持っていると聞き、よくグループで集まって遊ぶようになった。
同じ趣味をもつコミュニティの1人として仲良くなり特に強い印象はなかったが、確か「やたら人懐っこい人だな」と思った気がする。
出会ってすぐにぐいぐい距離を詰めてくる人で若干苦手意識はあったものの、とても優しい人だとも思った。
誰に対してもそんな感じだったので特になんとも思っていなかったのだが、そんなKさんからある日手紙をもらった。
1人になってから読んでほしいと言われ家で読んだ時、それがラブレターであった事にとても驚いた。
なぜなら私たちは出会って約1か月で、ほとんど2人だけで話したことはなかった。なのに、どこに好きになる要素があったのか。
後日当然断った私に対し、Kさんは「わかった。でも諦められるまでは好きでいてもいい?」と言った。
「答えられないけど、それでもいいなら」と軽く承諾した私だったが、後々この事をとてつもなく後悔するはめになるとは思いもしなかった。
Kさんの暴走

そこからも友人としてKさんとの付き合いは続いていたのだが、私はさすがに気まずくて少し距離を取ろうとした。
しかしKさんはまったく気にしていない様子で、いつも通りぐいぐい遊びに誘ってきた。最初はそんな本気の告白ではなかったのかな、とこちらも気楽に返そうとしたのだが、どうにもKさんの様子がおかしい事に気付いた。
まず今まではそんな事なかったのに、私が異性の友人と出かけようとするとついてくるようになった。行き帰りは家まで送ると言ってついてきたり、私が参加する予定のイベントを周りの友達に聞いたりして、自分も参加するようになった。
遊んでいても私が途中で帰ろうとしたら、自分も帰ると言い出したり、私の食べたご飯の支払いを勝手に払ってきたり、高価なプレゼントをくれたり。
極めつけは異性の友人が私の事をいいなと言っていたらしく、それに対して「あの人は駄目だよ」と勝手に言っていたらしい。
この辺りで堪忍袋の緒が切れた私は、Kさんを問い詰めてやめるように伝えた。
するとKさんは平謝りして「本当にごめんなさい。でも気持ちが抑えられない」と再度私に告白をしてきた。
少し恐ろしさすら感じた私は、丁寧に断り、「これ以上続けるようならあなたと友達ではいられない」と伝えた。
そこからはKさんの暴走はある程度おさまったが、それでもやはりまだ私に好意を持っているようだった。
恐ろしい事実

正直、この時点で私はものすごく参っていた。
ストーカーとまでは言えないがKさんのあまりの距離の詰め方が恐ろしかった。悪い人ではない事はわかっていたが、こんなに断っているのにまるで恋人気取りのような行動をされるのがあまりにストレスだった。
どうすればやめてくれるのか、私は友人に相談する事にしたのだが、ここでさらに恐ろしい事実を知る事になる。
なんとKさんは私との事を多くの人に相談していたらしく、私とKさんが属するコミュニティの友人達は、全員すでに私とKさんとの事を知っていた。
友人達の中では、こんなに一途にKさんは私の事を愛しているのに答えてあげないなんて私は酷い人だ、という話になっていたらしい。
友人に相談した時も「お、とうとう付き合う事にしたの?おめでとー!」と言われ、私は愕然とした。
ただでさえ自分の色恋沙汰を他人に事細かに知られているなんて嫌なのに、さらに自分が悪者呼ばわりされているなんて信じられず思わず涙が出た。
元々のストレスに相まって、自分は限界まで追い詰められていた事を、止まらない涙をぬぐいながらぼんやり考えていた。
なにも伝わらない

そこからどうなったかというと、私から事情を聞いた友人は驚いてはいたが私の話を信じてくれた。
そして「Kさんは今恋に盲目になって何も見えなくなっているから、しっかり距離を置いた方がいい。フォローはするから。」と言った。
こうして周りの協力を得てKさんと距離を置こうとしたが、それでもKさんが諦める事はなかった。
告白を繰り返し、何と言って断ればわかってくれるのかと悩む私に「こんなに悩んでくれるなんて今回こそは付き合えるかもしれない」と見当はずれな事を考える始末だった。
ここまで来ると周囲の認識も変わり、「こんなに私が嫌がっているのにKさんはいったいどうしたんだろう」と思うようになった。
今思うとあの頃のKさんの行為はストーカーギリギリだったと思う。どこまではっきり嫌だと伝えても理解してくれなくて、当時「この人は本当に同じ人間なのだろうか」とすら思っていた。
そうして追い詰められてどうしようもなくなった私は、完全に彼との縁を切る事にした。「もう友達も無理です」という言葉を最後に連絡先もブロックし、コミュニティにも参加する事をやめた。
時は経って

あれから数年が経ち、久しぶりにKさんに会う機会あった。
当時を思い出して少し怯えたが、Kさんは「あの時は本当にごめんなさい。あなたが嫌がっている事も何も見えていなかった。」と謝ってくれた。時の流れとはすばらしい。
こうして私達は友人に戻れた訳だが、今になって聞くと、当時私はKさんの好みど真ん中だったらしい。どうしても付き合って欲しかったが故の行動だったらしいが、悪気がなかった分余計に質が悪いと思う。
純粋過ぎるというのも困りものだ。
nzvisk著






























