ガタガタうっせぇんだよ、お前みたいな人間がいるから!業績?知るかバカッ
大学卒業後ブラック企業で働いていた。最初は右も左も分からず、とにかく一生懸命働いた。食うのも寝るのも惜しんでこれが当たり前だと思っていた。しかし自分が考えた企画を上司に奪われ、何とかとってきた仕事も上司の成績。本来は奴の仕事なのに帰り際に押し付けられてサービス残業。
そして今日も上司から嫌味を言われ我慢できず、前出のセリフである。
怒り心頭でそのまま会社を飛び出し、何時も乗っている通勤電車に乗ると空いていた席に座り込む。ついにやっちまったな、俺これからどうしよう。でも疲れたよ…深呼吸をする。
緊張も解け心身ともに疲労困憊だったせいか、いつの間にか眠りこけてしまっていた。

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…お客さん、ここ終点ですよ。お客さん
駅員に声をかけられて目を覚ます。慌ててホームに出て周りを見回すともう夕暮れ時、でも景色に見覚えがあったのを思い出した。意図せずまた来るとは思ってなかったが高校2年生の夏休み、駅を出てこの先にある海辺の喫茶店で、泊まり込みのアルバイトをして過ごした。
あの娘がいたこの町
考えなく駅を出たが、その足は浜辺の喫茶店に向かっていた。途中、携帯電話を見るとたくさんの着信履歴が目に入る、わずらわしい。そのまま電源を切る。
そして夕闇に浮かぶ懐かしい景色と潮の香り。喫茶店はあの時と変わらずそこにたたずんでいた。
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酒乱の父親と浪費癖のある母親。いつも金がなく両親の喧嘩が絶えなかった。家にいる時間が増える夏休み、親と顔を合わせるのは苦痛でしかなかったが、夏休みに入る直前、友達に海で宿泊所付きのバイトに行くんだけど、一緒に行かないかって声をかけてもらい、2つ返事で参加することにした。
処が一緒に行くことになっていた友達が、都合が悪くなりバイトをキャンセル。おいおい今更。あぁ自分も断ろうかな、でも家に居たくないし。結局バイト先に了解を得て、出発時は1人で向かうことになった。
そして当日、迎えをよこしてくれるって聞いていたけれど…目的の駅に着き改札を抜ける。
すぐに、あなたアルバイト応募の人?って声をかけてくる女の子がいた。俺と同い年くらいで高校生か、白のTシャツに水色の半パンとサンダル。ショートカットの髪型に目が大きくて薄い唇、ちょっと可愛いかも、そして見とれていたと思う。
「あの、応募の人なんですか?」
「あっ、バイト応募した福島ゆうじと言います」
「人が訪ねてるのに、返事してくださいね」
「すみません…(うわぁ言い方にトゲあんなぁ、気が強そう)」
プイっと後ろを向くと無言で歩き出したの慌ててついていく。海辺には多くの海水浴客が見え、1軒の海の家に連れていかれた。洋風の窓枠、入り口付近のおしゃれな植込み。見た目は喫茶店だ。夏のこの時期だけ海側の壁を一部取っ払い、テラスを作って海の家として営業しているそう。

お店に入るとマスターが待っていてくれて、口ひげを生やし渋めの中年男性だ。そしてもう1人俺と同い年くらいの男子がいた。マスターから紹介で、やはり2人は地元の高校生で同級生だった。男子は金田君。迎えに来てくれた女の子は飯島さんと名乗った。幼馴染らしい。
仕事上の事でマスターに一通りの説明を聞き、さてこれからどうすんの?って思っていたら、マスターが金田君、福島君のこと少しのあいだ面倒見てくれないかな。
わかりました!荷物はそこに置いていいから、ちょっとついてきて案内するよ。
そして店の裏手に廻り2人きりになる。彼は周りを見回すと、顔をグッと近づけ「あずさ」に手ぇ出すんじゃねぇぞ?いきなり脅されてしまった。いや今日会ったばっかだし。
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でも、そこから5日間はあっという間で、お店は忙しく仕事を覚えるのに必死、脅されたことなんか忘れていた。それよりも人生初のアルバイトは、何もかもが新鮮で時間が経つのもあっという間、楽しくて来て良かったって思えた。慣れてくると全体の流れも見えてきて、金田君と飯島さんの様子もわかるようになってきた。
気心を使わないやり取りなのは、やはり幼馴染なのだろう。でも金田君をあしらい気味の飯島さんを見ていると、恋人同士じゃないのかなと思ってしまう。
この日も夕方、金田君と飯島さんは先に上がっていて、閉店後にマスターに出してもらったまかないを食べ、寝泊まりしているアパートに帰る処だった。余り手入れのされていない垣根の平家そばを通る。
ガチャーン、なんで?だから母さん出て行ったんじゃない!
食器の割れる音と悲鳴にちかい、聞き覚えのある女の子の声、なんだ…ビックリして垣根を覗き込む。でも隙間からは部屋の明かりが見えるくらい。続いてバタンッって扉が閉まる音が聞こえ、玄関から人影が飛び出しぶつかりそうになった。
きゃっ!うわ!人影はやはり飯島さんで。
俺だと気がつくとものすごい形相で睨まれて、何見てんのよって怒鳴りつけられ、暗がりの向こうへ走って行ってしまった。
泣いて…いたな?
そしたらガシャンって、また家から食器の割れる音が聞こえた。ただ事じゃなさそう、田舎だけど、夜に若い女の子が1人でいて良いわけない。彼女が消えた方向へ向かって探さないと、確かこの先は小さな漁港だったよな。
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港に着き辺りを見ると岸壁で三角座りをしている、飯島さんらしき姿を見つけることができた。はぁ良かったよ。そっと近づき時折揺れる肩を見ながら、彼女の隣に立つ。
「あの…」、一瞬ビクッとしてこっちを見上げたけれど、俺だと気づくと直ぐにうつむいてしまった。なんて声をかけて良いのか…、結局自分もそこに座る。
1時間は立ったろうか。星空に月明かり、波の音が遠く聞こえる。
「どっか行って欲しいのに」彼女がうつむいたままボソッとつぶやいた。まぁやっぱりそうだよなぁ、でも1人にできないし、こんな時なんて言えばいいんだ?
「えっと、あっ。そしたら俺の一人語り聞いてくれる?」
「はぁ?」
こっちを見て何を言い出すんだって顔で俺のことを見る彼女、もう勝手にしゃべっちゃえ。
俺んちさ、酒癖の悪いおやじと、直ぐにお金使っちゃうおかんで、お互い好き勝手してお金も全然なくって、いっつも喧嘩しててさ。でも親じゃん?小さい時は喧嘩ばっかしないで仲良くして欲しいって。かまっても欲しかったから色々話しかけたり、泣きながらうったえて見たり、でも全然変わんなくってさ。何度も失望して呆れちゃって。
それで中3の時ちょっと悪い方に行きかけたんだけど、その時の先生がお前はまだ未成年だけど、もう物の分別は分かる年だ。だから正直に言うけれど、お前の両親はきっと変わらないと思うぞ、ずっと見てきたんだろう?もう考えを改めろって。あきらめろって言ってんじゃなくって、これからは似た事で苦しんでいる人がいたら、手を貸せる人間になれって。外に目を向けろって。
ごめん、うまく言えないけれど、もう親のことにこだわるのは辞めて簡単じゃないけど、自分の進む道を見つけろってそんなことを言ってくれたんだ。
彼女は黙って聞いていた。
話し終えるとまた2人沈黙が続く。やがて、ふぅってため息をつくと立ち上がり、パンパンってお尻のほこりを払うとこちらを向いて
「あんた分かった風なこと言うね、帰る」「あ、夜も遅いし送ってくよ」
「良いよ」「アパートの途中まで道一緒じゃん」
「……」
並んで歩いている間もずっと喋らず、やがてアパート前について、ほんとに家まで送らなくっていいか?黙ってうなずく彼女。そして1人歩きだす。まぁ大丈夫か…アパートの階段を上りかける。
ふいに「ねぇ」って呼ばれて振り返った 「ありがとう」 それだけ言うと彼女はかけだして、夜の暗がりに消えて行った。
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それからバイト中は飯島さんのあたりが、柔らかくなったような気がする。まぁ不愛想なんだけど、前よりは表情もあって少し話もするようになったし、信用もしてくれているようだ。ごくたまに笑う処も見るようになり、まかないをマスターの代わりに作ってくれたり、暑くて喉が渇いたって思っていたら、冷たいものを用意してくれていたり
根っこはきっと優しい子なんだって分かった。そしてあっという間に8月終盤、バイトも明日の午前で終わりになるその日、マスターと金田君は表のテントをたたみ、俺と飯島さんは店内の閉店作業をしていた。
「今晩あの岸壁に来てくれる?」「えっ?いいけど…」
飯島さんに小声で声をかけられ、時間を決めてそこで待ちあうことになった。
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岸壁に着くと彼女はすでにそこにいて、俺を見つけると軽く手をあげた。遅くなったと詫びながら途中で買ってきた缶ジュースを渡し、岸壁の縁に座ってジュースで乾杯する。それからしばしの沈黙。揃って夜の海を眺めていると、何か言いたげだった飯島さんが意を決したように「あのさ、わたししゃべるの得意じゃないからこれを…」って手紙を手にした時だった。
「おい、おまえら何やってんの」金田君だ、いつの間にか後ろにいたらしい。
「福島、お前あずさに手を出すなって最初に言ったよなぁ。マスターに迷惑かかるからってずっと我慢してたけど、お前調子に乗ってんじゃねぇぞ、たてやコラ」
そばに来ると胸倉をつかまれて、無理やりに立たされる。俺も彼を睨み返しながら
「金田君は飯島さんの彼氏じゃないんだろ?俺の勝手だし。この手離せよ」
お互いが胸倉をつかみあう。
「あずさは俺の女なんだ、こいつのことは誰よりも分かってんだよっ、横からちょっかい出してんじゃねぇぞ」
「ちょっとやめてよ、いつあんたの女になったんだよ。小さい時から知ってるってだけでしょう?誰と会おうと、誰と付き合おうと関係ないじゃない!」
「うるさい、おまえは黙って俺の横に居ればいいだよっ、こんな奴かまうからだろ!」
金田君が更に俺のシャツを引っ張って、ビリってやぶれる音がした。
「金田っ、飯島さん嫌がってるじゃないか、おまえ恥ずかしくないのか?勝手に突っ走って、いい加減にしろよ!」
「は?突っ走る?お前ほんと、なんも知らねぇんだな?」
この時ニヤッと笑った金田君の顔が凄く印象に残っていて、飯島さんのハッとした顔が今も忘れられない。
「やめて!!!!!!」
「あずさの最初は俺なんだよ」
「!?」
一瞬思考が停止して手が緩んだ。と、同時に金田君に突き飛ばされて尻もちをついてしまう。
「お前があずさとこれからよろしくしても、俺が最初でおまえは2番だ、2番なんだよ!」
吐き捨てるように言われ、強い衝撃で言葉をなくし固まってしまう。良からぬ様子が頭に浮かび、あぁ俺この子のこと好きだったんだ…無意識に彼女の顔を見ていた。
俺の視線に気づくと顔をぐしゃぐしゃにして
「なんで…そんなこと…、なんで今ゆうんだよ!!!」
泣きじゃくりながら金田君に叫ぶ。そんな飯島さんを見て、あぁ本当のことなんだなって理解した。そして彼女は大きく首を左右に振ると、
「健介のバカ!お前なんか大っ嫌い!!」
そのまま走り去ってしまった。「待てよっ」て後を追いかけていく金田君。
静かになった岸壁。1人取り残された俺。遠く波の音だけがいつまでも聞こえていた。
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翌日の朝早く、重い気持ちのままお店に向かった。まだ2人は来ていないはずだ。すでにお店にいたマスターにアパートの鍵を返し、お世話になりましたと頭を下げる。
あの子たちに合わなくていいのかな?とマスター。昨日のうちにお礼は言いましたし、ありがとうございました。そしたら何かを察したのか、ん、じゃあまたいつでも遊びにおいで、大歓迎で待ってるから。ご苦労様でした。笑顔でそう言って送り出してくれた。
それから駅に向かいホームで電車を待つ。ホームで最後のさよならをなんて、ドラマチックなことが起こるはずもなく。
残暑が残る暑い中。遠く山の向こうの入道雲をながめながら、俺はこの町を後にした。
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こんばんはぁ…。なんて言いながら喫茶店の扉を開けて店内を覗き込む、お客はだれもいない。店の様子はあの頃と変わらず、静かな音楽が流れている。カウンターの奥で渋みが増したマスターが静かにいらっしゃいませ。好きな席へどうぞ、手で即されて窓際のテーブル席に腰かける。

おしぼりと水を持ってきてくれたマスターに、ご無沙汰しています。ここでお世話になりました福島です。おって顔をしたマスターが笑って、元気そうだね。ご注文はどうしますか?穏やかに声をかけてくれた。
コーヒーをお願いします。
分かりました少々おまちください。何年ぶりになるのかな?懐かしいね、もう立派な若者だ。いえ、そんな。なんてやり取りをしてコーヒーを淹れてもらっている間、マスターと色々喋っていた。
お待たせしました。できあがったコーヒーをテーブルに置いてくれる、いい香りだ。それからこれを預かっていてね、一緒に封書の手紙を渡された。
裏を見ると「飯島あずさ」と書いてあった。
えっと思うと同時に思わずマスターの顔を見ると、いつかこの店に来た時に渡して欲しいって、ずっと預かっていたんだよ。読んでみたら良いんじゃないかな?
はいっ!
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福島君へ
この手紙を見るのはいつになるのでしょうか。あの時いなくなってごめんなさい。伝えたい事があってそれを手紙に書いたのですが、渡しそびれました。今こうして手紙を書きなおしています。
私は楽器演奏が好きで、高校で吹奏楽部にいました。楽器はオーボエを担当しています。クラリネットの親戚みたいなやつ。6月に入って父と喧嘩した母が家を出て行き、部活も春の新学期から、真剣に取り組む派とそうでない派に分かれちゃって、練習もできず退部した処でした。
何もかもめちゃめちゃで色んな事に諦めていました。でも福島君が話してくれた「自分の道を見つけろ」って言葉で色々考えました。
私はやはり吹奏楽がオーボエが好きです。今年はもうコンクールの地区大会は終わったけれど、来年高校生活最後の年だし、もう一度部活に真剣に取り組んで、吹奏楽コンクール全国大会に出たいと思います。そして音楽家を目指そうと思います。
こんな事を気づかせてくれてありがとう。もしも私が将来音楽家になれたなら私の演奏をぜひ見に来てください。
それから…好きでした。じゃあね♪
飯島あずさ
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マスターあの、飯島さんは今どうされてるんですか?
マスターはにっこり笑うと黙って壁の方に視線を送る、俺もその視線の先を追って壁を見た。そこには額に入れられた写真が2枚かけられている。席を離れその写真のそばに立った。
1枚は、県立○○高等学校吹奏楽部 第○○回 全日本吹奏楽コンクール全国大会 銀賞 と書かれた高校吹奏楽部の集合写真。オーボエを持ち笑顔の彼女がそこにいた。
もう1枚は情熱的にオーボエ演奏中のシーンを切り取った、海外のコンサートポスター。彼女だった。
なんだ…すごい…じゃん。彼女頑張ったんだなぁ…そしてあらためて手紙を見ていたら、いつの間にか周りの景色が歪みだし、やがてボロボロと涙があふれ、嗚咽を押さえる事ができなくなってしまう。
何で泣いてんだろ?俺、おれさ…。
マスターは1人ニコニコしててお皿を磨いている。そして静かに、しずかに喫茶店での時間は過ぎて行った。
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あれから3年が経った。
俺はその後会社を退職し自分で起業した。零細企業だが、今は社員も何人か抱え何とか食うに困らない程度までにはなっている。
そして久々に数日間の休暇をとる事ができた。今、日本の某国際空港にいる。ヨーロッパのとある国へオーケストラのコンサートを見に行くんだ。時間が掛かったけれどやっと約束が果たせそう。

おっと、出発時間が来た。
彼女からもらったコンサートチケットを持ち立ち上がる。そして発着ゲートから見える、あの時と同じ夏の青空の下、俺は国際線の搭乗口をくぐった。
Bonbon著






























