サークルでの出会い

ため息の多い、一生の戦友

ここ10年と少しくらいで世間のオタクに対する見方がずいぶん変わった。

20年以上も前は白い目で見られていたけど、いまはかなり生きやすい。広い狭い深い浅い、カジュアルとかファッションとか。世界は様々なオタクに溢れている。

いまの若い子は生きやすくて少しだけうらやましい。そう思う時がある。

でも、私が若い時にいまのような受け入れられている世界だったなら、私はたぶん彼と出会うことはなかったんだろう。

彼。夫であり、一生の戦友と。

私は関東住まいのレイヤーだ。略さずに言うとコスプレイヤーである。

二次元のキャラクター、三次元のドラマや映画の人、物、それらに身をやつして楽しむ。そういうタイプのオタクだ。衣装は買う人もいれば作る人もいる。私は自分で衣装を作るタイプ。メイクも舞台用並みにしっかりするので、歳を重ねるたびにお肌が気になってくる。それでもこの趣味はやめられない。

私がオタクとして目覚めたのは幼いころに放送されていたアニメがきっかけだ。

ただアニメと言っても子供向けアニメなので、同い年の子はみんな好きだったし楽しんでいたアニメだ。私はそれを小学校の高学年になっても中学に入ってもずっと楽しんでいた。周りが別のものに興味をもって離れても私はずっとそこにいた。関連グッズは大事にしたし、新しいものが出るたびに買った。

もちろんそのアニメ以外にも好きなアニメが増えて、そちらのグッズも買うようになり——そうやって私は幅広くアニメを楽しんでいた。

そんなとき。埼玉の方で起きたとある事件をきっかけにオタク、もといアニメ好きは白い目で見られるようになった。世間から隠れるように生きなくてはならなくなってしまった。

男だろうが女だろうが、ジャンルがなんであれ、アニメが好きというくくりで嫌厭されるようになったのだ。

ちょうど私の青春時代がそこに当たっているものだから、それはもう息苦しかったのを覚えている。周りから奇異の目で見られるし、アニメのグッズを見られただけでひそひそ話をされる。そりゃあもうしんどい時代だった。

のちに大学で出会った友人たちは地方出身だったからというか、周りが自分のやることに興味がなかったり、それもひっくるめて受け入れてくれる懐の深すぎる人たちだったから割とオープンにしていたのを知って「環境格差……!」と嘆いた覚えがある。

中高を鬱屈とした気持ちで過ごして、志望の大学に入学。大学に入ると世界は一気に広くなった。

大学公認と未認可のサークルが乱立していてまるで無法地帯。しかし、そのなかにアニメ・漫画・ゲームなどをひっくるめた、オタク全般を受け入れるサークルが存在していたのだ。もちろん私は喜び勇んでそのサークルに入り、そしてまたオタクのディープな世界を知ることになるのだがそこは割愛。

そして私はここで戦友と書いて『友』と呼べる人に出会うのである。

私がその戦友に出会ったのは入部してすぐのことだった。

彼は私の一学年うえの先輩で、アニメ大好き声優大好き、そのうえ読書家で歴史オタクでと色々な要素を兼ね備えていた男だ。

サークルはオタクである時点でわりと仲間意識は強く、さらに絵描きから小説書きからレイヤーからと様々なオタクにあふれていた。だから気になるアニメ、ゲームがあると言えば情報提供されるしゲームは貸してもらえるし、なんなら部室にパソコンがあるからそれで今遊べと言われるような場所だったのだ。

もちろん私がその先輩と仲良くなるきっかけになったのもそういった情報提供をしてもらったことに始まる。

情報提供と言っても、私が苦手なアクションゲームとかをやってもらったり、そういったキャラクターを操作してキャラクターの着ている服をスケッチさせてもらったりしていただけだった。もちろん部室にテレビがあったので彼の家にお邪魔したというわけではない。

彼がゲームのキャラクターを操作して、その横で私が「このキャラの服の生地どれ使ったらいいかなぁ。ベロア?」とか「これ作るとしたら生地高そう。しかも布たっぷり使ってるから結構な長さ必要っぽいよね」ってまくしたてると、彼は「ほんとこだわるよねー」とどこか空笑い。それがだんだんと部室でよく見られる光景だと周囲から言われるようになったけど、私はただコスプレに情熱を注ぐだけの女に過ぎなかった。

その情熱の注ぎ具合に彼は引かなかったし、周りも引かなかった。むしろもっと焚きつけたり、情報提供してくれたりした。

そうやってもう毎日のように衣装を作ってコスプレして、たまにはちゃんと授業も受けてレポート書いて。私の日々はコスプレが中心だった。すべての道はコスプレに通ず、みたいな。そのくらいそれ以外のことをなにも考えていなかった。

だからだろう。いつものように彼がゲームしているのを隣で見ていた私は、彼の突然の告白に対応できなかった。

彼が何気なく呟いた「好きです。付き合ってください」。

ゲームのなかのキャラクターを操作しながら言った彼は私の方をちらりとも見ていなかった。もしかしたらゲームのキャラに向かって言ったんだろうかとも思える言葉。一瞬私に向かって言ったんだろうか? と考えたけど、彼が「聞こえた?」と聞いてきたことで、その言葉が私に向けられたものだというのを理解した。

「うん、聞こえた」

「そっか」

「うん。あのね、いいよ」

「わかった」

そんな単調な会話で彼のおそらく一世一代の告白は終わった。

告白されるのなんて慣れていたので、さっぱりした扱いになってしまったのは正直許してほしいと今となっては思わなくもない。

でも好きか嫌いかと言われたら嫌いじゃなかったし、互いに互いの趣味を否定しないし。それにイベントごとでは私の手伝いをしてくれるし、逆に私が彼の欲しいものを買いに行ったりしたこともある。イベントでの買い物を任せたり任せられたり。

あと読書家なので資料探しに協力してくれたりしたら嬉しいな、なんていうちょっと欲に塗れた考えもなくはなかった。私は長い文章を読むのがとても苦手だったので。

その日を境に私と彼の関係は一応『恋人』ということになったのだけど、やってることはあまり変わらなかった。部室でゲームしてイベントの時は協力して戦いを挑みに行く。私がコスプレしてたら彼は褒めてくれるし、彼の趣味の釣りについて行ったりもする。

子どもができたいまもそれは変わっていないけれど、子どもを産んだあとは体型がすっかり変わってしまった。それもあって昔のような細みの服は着られないし、増えた体重はなかなか減らない。おかげで彼から「昔は細かったのに……」とため息をつかれるありさまだ。

子どもがお腹のなかにいるときはさすがにやりたいコスプレができなかったからお休みしていたけれど、子どもを産んだいまは再びコスプレをしようと日々ダイエットと衣装づくりにいそしむ日々を送っている。

瘦せようと頑張ってるのに、毎日私を見てため息をつくのはそろそろやめてほしい。

aikslgl3著

出会い系マッチングサイト情報